激化する世界市場で克ち残るには、グローバル生産体制の強化が必要。オペレーションの標準化と情報の水平展開、拠点間連携の推進により、新機種立上げプロセスの改善や海外拠点のレベルアップ等に効果を発揮。
世界市場での部品供給に対応するために、自動車部品メーカーはグローバル生産体制が必要。武蔵精密工業は、グローバル経営の最適・最速判断の実現を目指し、ITシステムのグローバル化を推進。その一環として導入されたSpaceFinderは、構築の柔軟性を活かし、幅広い用途に活用されている。今回の事例では、その中から、『新機種立上げ』と『拠点体質の評価・管理」を中心に、業務改善の取り組みも交えてご紹介する。
海外の生産拡大を確実に実施するために、今までのやり方を変える必要があった
ITソリューション部
部長
清水 佳代子 氏
清水氏:2010年代に入って自動車産業の海外シフトが加速、グローバル車種等の大型案件が重なるようになりました。品質保証し安定供給ができる新規部品の立上げのために、海外拠点からマザーである日本に入る支援要請に対応しつつ、国内でも多くのメンバーがバックアップを行いますが、手が回らない状況になっていました。そのため、グローバル全体でレベルアップを図っていく必要があるのですが、今までのやり方では海外拠点の状態も見えず、拠点の自立化も進まないことが課題になっていました。特に現場を圧迫する大きな要因が、新機種立上げの各フェーズで開催される評価会でした。
清水氏:プロジェクトメンバーが評価会の準備をするのですが、その資料は100ページを超える場合もありました。重要なポイントが抜けていないか、品質が担保されているか等の確認を拠点側と事前に何度も行うなど、多くの要員と工数がかかっていました。事務局は、各項目の資料を集め一つのファイルに体裁を整え、評価者に事前に紙で打出し配布。評価会は必要なことであるが、どうすれば確実に全部こなせるのだろう、という状況でした。
市販パッケージでは機能やグローバル性が不足。自社で容易に構築可能なSpaceFinderを導入
清水氏:新機種立上げプロセスを効率化できるソフトがないか調査したのですが、市販のパッケージ製品では当社のニーズに合うものが見当たりませんでした。また、操作する人のスキルに頼るものはグローバルで使いこなすのが難しいと考え見送りました。そんな折、SpaceFinderのセミナーに参加し、これならプログラム言語が分からなくても自分たちで構築できるし、価格も抑えられると思いました。
鍛造から組立までの一貫生産体制を強みとし、金型や生産設備も内製する武蔵精密工業。ニーズに合致するソフトが無ければ、自分達でシステム構築するということも、自然な流れだった。稟議では『グローバル標準化』を訴求し、2013年にSpaceFinderが導入された。
清水氏:オペレーションを標準化することで、情報を集約し水平展開が可能になり、高位平準化が図れます。ノウハウを蓄積し、改善を繰り返していくことで、スパイラル的に会社全体をレベルアップさせることも、SpaceFinder導入の大きな狙いです。
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業務の標準化と見える化を実現し、グローバルで改善サイクルを加速するプラットフォーム
現在、グローバルで1,000名強がSpaceFinderを利用。まず新機種管理を立上げ、その後、幅広い用途に展開。今も用途拡張が続いている。
清水氏:システム設計で重視したのが、グローバルで使えるかということ。海外は人の入れ替わりも多いですし、各拠点が同じレベルで使ってもらうためには、人の運用に頼る部分をどれだけ減らせるかが重要です。そのために、帳票構成を3階層に納めることやフォーマットの統一性など、シンプルな構成に徹底的に拘りました。
現在では新しい仕組みを追加しても、使い方が感覚的に理解でき、現地での操作説明会も不要になっている。「起票の仕方と検索方法の説明さえすれば、勝手に触ってもらえます。」(山本氏)
●新機種管理:研究開発/新機種立上げ ●研究開発週報 ●試験設備管理 ●試験依頼 ●特許申請 ●拠点体質の評価・管理 ●重要会議 ●クレーム管理(構築中) 他
第1生産管理部
生産企画グループ
山本 亮 氏
清水氏:ここからは新機種立上げでの活用状況を紹介します。新機種立上げプロセスは、ビジネス軸で評価するSED会議と、ものづくり軸で評価するQCD評価会が連鎖して進みます。新規案件はまずプロジェクトコードを発番し、『Project Summary』を起票。その配下に『SED Summary』(以下、SED帳票)、『QCD Evaluation』(以下、QCD帳票)を起票して詳細情報やドキュメントを登録。これらの帳票を用いて会議を行います。
山本氏:FMEAや工程設計表など、技術・設計領域でExcel等を使って作成しているドキュメントのフォーマットも標準化し、SpaceFinderの帳票を使って作成するように、移行を進めています。『Project Summary』から、その案件で作成するドキュメントのリストが開き、そこから各ドキュメントの帳票を起票できます。
清水氏:こうすることでドキュメント内容そのものをデータ化でき、それらを蓄積していくことで、ビッグデータとして活用できるのではと考えています。蓄積した品質情報を傾向分析し、設備情報と連携することで、不良を作らない工程設計ができるのではないかと思っています。フォーマットを標準化し、検索性も向上することで、情報活用がしやすくなり、拠点間の連携が進むことも期待しています。
~新機種立上げプロセスの効率化・工数削減~
武蔵精密工業では、SpaceFinder導入とあわせて様々な業務の見直しを実施した。その一例が、評価会用に作る説明資料の廃止である。
清水氏:会議の為の資料作成を止め、普段の業務で作成している成果物をQCD帳票に添付することで、評価会にかかる工数の約4割が削減でき、その分、本来業務に集中することができるようになりました。評価者は資料の配布を待つ必要もなく、事前に資料に目を通すことでポイントを絞った議論ができます。評価対象は多数ありますが『24時間前』等の設定をすることで、次の対象がリストアップされ、参加者はそこから帳票を開いて簡単に資料を参照することができます。
第2生産管理部
工務入荷グループ
グループマネージャー
金子 美佐代 氏
金子氏:事前に資料を見ることで、事務局側もその案件のポイントを整理しやすくなり、ポイントに合わせた準備の仕方、報告の仕方に変わってきています。私が担当する場合は、重要な資料に印を付けて、その資料は必ず説明するようにしますし、会議の冒頭で「今日のポイントはこれです」と宣言します。評価会の進め方を変えたことで、リターン(再審査)回数が減りましたし、以前は2時間程かかっていた評価会が1時間以内で終わるので、評価対象が増えてもキチンと実施できるようになりました。事前会も、以前のように何回も行うことはなく、1回で済んでいます。現場でも、前よりも仕事が楽になり、モチベーションが上がっています。
以前は多い場合で5~6回もリターンになることがあった。その回数を減らすことで、プロジェクトの停滞を防止。現在では案件やフェーズによっては、評価をシステム上で完結することで、会議自体を削減する取り組みも始めている。
~指摘内容の認識合わせ・指摘件数減~
清水氏:以前は、評価者が評価シートにコメントを手書きし、会議後に指摘事項を事務局が整理して、プロジェクトチームに渡していました。一回の評価会で7~10個の指摘が出て、その対応にも工数がかかっていました。今は、指摘事項を会議の場でSpaceFinderに直接登録。評価者やプロジェクトメンバーの意見を反映しその場で合意するように運用を変更し、曖昧な指摘や指摘内容の認識違いを防止しています。また、部門内で完結できるような指摘が篩いに落とされるので、指摘件数も半数程度に減っています。その結果、指摘対応工数が減り、プロジェクトがより前進するようになっています。
指摘事項は1つの帳票に集約される。それぞれの指摘には期限と担当者を設定。担当者が対策実施内容を入力、エビデンスとなる資料を添付し、上長が承認。それらを評価者が確認・承認することで課題解決のやりきりに繋げている。また、対応状況を一覧画面で見える化し、期限を超過した場合は自動で通知メールを配信することで、期限遵守と対策徹底をサポートしている。
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~情報を連携し、経営判断に活用~
清水氏:帳票には、同じ案件に関る各種帳票へのリンクボタンを配置し、自分で探さなくても情報を取り出せるように作り込みを行いました。例えば、SED会議の最中に、関連するQCDの資料を各自が手元のPCで確認することも簡単に行えます。また、SED帳票では、同じ車種の別製品カテゴリや他拠点で立ち上がっているプロジェクトが一目でわかるようになっています。これにより、「この車種は足回りで案件化しているが、別カテゴリの受注状況はどうか」、「このプロジェクトはグローバル車種だが、北米の状況はどうなっているのか」というような議論を展開することができます。
~海外拠点の自立化~
武蔵精密工業は、海外14ヵ国で32拠点を擁する。グローバル生産体制を強化する上で、『海外拠点の自立化』も重要なテーマだ。
清水氏:評価会毎に目的や刈取る内容は決まっているのですが、規定や要領だけでは海外のメンバーに徹底できず、駐在員からは「この項目はこの資料でと具体的に示して欲しい」という意見が出ていました。そこで、QCD評価会の評価項目をタスクレベルに落とし込み、全製品、全拠点で標準化。QCD帳票を起票し、評価会のフェーズ(0、1、2等)を設定すると、評価項目や責任部署、ドキュメントの種類、期限が自動でリストアップされるようにしました。当社では、プロジェクトをA/Bランクに分類しているのですが、タスクを具体化・標準化してシステム上で管理する枠組みを作ったことで、Bランク案件については海外拠点が主体となってQCD評価会を行い、それを日本で確認することもできます。以前はどんな資料を出せばいいかもわからない状況でしたが、かなりスキルアップが図れていると思います。
金子氏:グローバル案件では、例えば北米、次に日本、アジアというように順次拠点展開されます。後発の拠点は、先行している拠点の資料をSpaceFinder上で参照でき、立上げ時の課題やノウハウを参考にすることで、作業を効率化をすることができます。
海外拠点の自立化には、拠点のスキルアップと共に、プロジェクトや拠点状況を見える化し、早期に課題を把握・的確な判断や支援ができる環境が必要。「いつでも拠点の状況が問い合わせすることなく把握できます」と清水氏は語る。
~QCD評価会の開催遵守率が大幅に向上~
清水氏:以前は、計画したQCD評価会を確実に開催することができず、QCD0と1を合体したりQCD0と1を飛ばして2まで来たりして、手戻りになることがありました。そこで、QCD評価会の開催遵守率をKPIの一つに設定したのですが、今では開催遵守率が90数%にまで向上しています。
■拠点体質の評価・管理
武蔵精密工業では、MQCDと呼ぶ、生産拠点の体質評価・管理を実施している。この業務にもSpaceFinderが適用され、監査業務の効率化・コスト削減と拠点のモチベーションアップの両面で効果が現れている。
清水氏:MQCDは、グローバルで全生産拠点を対象に毎年実施。従来は5~6人のメンバーが各拠点を順次訪問し監査を行っていました。チェックリストの管理や監査結果の集計、レポート等はExcelで、拠点が提出する資料はファイルサーバで管理していたのをSpaceFinderに移行しました。『Check List』帳票に入力した監査結果が拠点毎の『Category Summary』帳票に集約され、更に『Overall Summary』帳票で全拠点が一覧で可視化される仕組みになっています。
~監査の効率化・コスト削減~
山本氏:以前は、ファイルサーバに拠点別のフォルダを作って資料を事前登録してもらい、それを元に現地監査を行っていたのですが、山のように入っているファイルの中からファイル名を頼りに見分けなければならず大変でした。SpaceFinderでは、チェック項目が帳票上にリストアップされ、それぞれに資料を添付できるので、項目に応じた資料かわかりやすく、現地で追加入手したドキュメントも同様に登録できるので、効率的に監査を行うことができます。チェック項目は年に1回見直しを行いますが、マスタで一元管理されているので、一括でチェックリストを更新できます。
「サーバのフォルダに資料を入れてもらうのは、いくらお願いしてもなかなか徹底できません」と清水氏は語る。「場所を探すのが面倒なんです。でも、SpaceFinderなら入れてくれます。」
清水氏:報告書作成も、ポイントの自動集計はもちろん、チェックリストのコメントを引用したり、監査結果のレーダーチャートやグラフが自動生成されるので、大幅に効率化。その結果、以前は1拠点あたり5日間かかっていたのが3.5~4日に短縮しましたし、フルメンバーで行かなくてもよく、マネージャの同行も必須でなくなりました。担当のマネージャには、監査実施状況をリアルタイムで把握できる点も好評です。マネージャが同行しなかったり、同行していても担当が分かれて監査を行うので、「この指摘では不十分ではないか」というような指示をタイムリーに行うことができます。
武蔵精密工業株式会社
取材日:2018年11月7日
※ 記載されている製品名、会社名は各社の商標もしくは登録商標です。
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