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品質保証の考え方と実践

~ISO9001を超えて新たなQMSの仕掛けつくり~

公開日:2022年5月31日

不確実性の時代において、企業は環境変化への対応力がこれまで以上に求められています。製造企業の競争力を支える品質においても、従来の延長線上にない視点で考える時ではないでしょうか。本記事では、品質保証における考え方を再度見つめ直して、経営ビジョンを実現するための品質活動の実践について解説します。

1. 品質保証とは?品質保証における重要な考え方

品質保証とは、品質を確約する活動といえます。JIS Q 9000:2015品質マネジメントシステム-基本及び用語では、「品質保証を品質要求事項が満たされるという確信を与えることに焦点を合わせた品質マネジメントの一部」と定義され、これらは品質を確約する活動といえます。

顧客要望を満足させるためには、契約書や仕様表で約束する要求を守るだけでなく、様々な環境条件や社会要求に耐える総合的な品質が必要です。例えば、スマートフォンは日常の降雨や落下程度では壊れず、トラブル時には直ぐに対応してほしいです。顧客がこれぐらい当たり前と感じるようなことも、製品の利用シーンを多様な視点で想像して織り込む必要があります。品質保証とは、品質を確約する活動を包含した、商品企画・設計・製造・サービスといった様々な組織機能を挙げた品質マネジメント活動と考えるべきでしょう。

2. 品質保証と品質管理との違い

品質保証と品質管理の違いは、品質を確約する仕事の範囲の違いといえます。モノづくりに関与する全組織を挙げた広義の品質保証の考え方と、検査や再発防止などの狭義の品質保証の考え方に区分すると、多くの日本企業は、前者を品質保証部門、後者を品質管理部門に区分しています。品質保証部門の主なる役割が全社品質保証体制の構築で、品質目標の策定、品質に関わる要領・規定類の作成、ISO9001などの認証審査や維持活動と、狭義の品質保証の統括などの役割を担います。品質管理部門は、検査・是正・品質報告・再発防止などの活動を担います。例えば、生産部門と協業して不良を起こさないための作業手順や管理基準の作成や、調達や出荷部門と協業して部品・原材料の受入検査や出荷検査の管理をおこなうなど、品質問題の発生を最前線で防ぎます。

品質管理の最大のリスクが、生活者の環境・身体・財産への影響を生じさせる問題です。商品回収やリコールを伴い、その経営インパクトは計り知れません。重大でない小さな問題も、品質問題はボディーブローのようにジワジワと影響し、顧客の信頼を低下させます。一方で、品質問題をチャンスと捉える視点があります。良くない事は、それが発生して初めて認識できます。品質問題を組織が再学習するチャンスと捉えて、良くない事の発生防止に留まらず、情報を生かす品質保証の考え方が重要です。

3. 品質保証活動の変遷

QC活動

日本の品質活動の代表例に、1960年代から導入されたQC活動があります。QC活動とは、働く人たちが自主的に品質管理(Quality Control)の手法を勉強して、職場の身近な問題を改善する活動で、5~10名の小集団で実施するためQCサークルとよばれ、1970年代以降企業内の各サークルが活動内容を競うQCサークル大会が普及し、企業挙げた活動として品質改善に寄与してきました。その後QCサークルは製造企業だけでなく、病院や小売業など様々な分野に拡大し、日本企業の競争力をボトムアップで支えてきた、重要な活動であったと評価できます。

ISO認証取得

1990年代からは、次章で説明するISO認証取得が始まり、個別の品質活動から企業全体で品質を担保する活動、すなわち品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)が広がり品質保証体系が定着しました。近年、グローバル化やデジタル技術の採用は、設計及び調達・生産活動で複雑な企業間関係をもたらし、モノづくりの不確実性を高めています。個々の仕事の改善に留まらず、仕事のプロセスで品質を担保する考え方が重要になってきたといえます。

4. ISOの重要性

品質に関するISOとは、国際標準化機構による品質マネジメントシステムに関する規格の総称で、ISO9000、ISO9001、ISO9004、ISO19011を捉えてISO9000ファミリー規格とよばれます。ISOは、品質を守る仕組みが組織的に担保されていることを第三者機関が認証して、購入者が安心して取引ができることが狙いです。品質マネジメントシステムにおける、業務ルール管理、組織的なDR(デザインレビュー)、エビデンス管理、業務書類の整備、照査承認の徹底、定期的内部監査、などが規定されています。

ISOの重要性は顧客への安心感や信頼感の提供に留まらず、企業内部の改善活動に役立ちます。品質視点で多種の活動のルール化が進むことで、業務の問題点が見える化できる、改善が段階的に進むといったISO自身の効果や、外部審査で客観的に評価できる、原価低減やサービス向上が進む、といった波及効果も期待できます。

5. 品質保証の現状と課題

ISO認証取得によるQMSの構築は、職場主導活動で比較的短期間で推進され、2000年頃には多くの企業で採用されるスタンダードとなりました。しかしながら、ISO取得後は一度決めたルールの厳守とQCサークル的な現場改善に留まり、全社視点のダイナミックなQMS改善に消極的な企業が多くないでしょうか。

全体最適を見据えたQMS

QMSは、質の良い製品提供に加え、調達・サービス・物流・営業といった多種の仕事が関わるため全部門の協業が重要です。ISO認証の維持を目的としているだけでは、QMSを経営に生かすことはおろか協業の強化は困難で、認証不要の声を生み出す危険性もあります。QMSを経営に生かすためには、現場改善活動に留まらず真のTQM(Total Quality Management)、すなわち、「プロセス及びシステムの維持向上,改善及び革新を全部門・全階層の参加を得て様々な手法を駆使して行うことで,経営環境の変化に適した効果的かつ効率的な組織運営を実現する活動」の実践が必要です。
出典:日本品質管理学会規格「品質管理用語」

TQMに欠かせない要素が経営的視点で、全社組織を統合的に鳥の目で観察し改革を実施する全体最適の活動が必須です。足元の課題改善も大切ですが、変化する経営環境やビジネスモデルをQMSに取り入れなければなりません。

トップダウン型改革

全体最適の改革成功例に、1990年以降米国で成果を発揮したシックスシグマ手法があります。この手法は、日本のQC活動の研究から開発し、テキサスインスツルメント社、IBM社、ABB社、アライドシグナル社が1992年から1994年にかけて、GE社も1995年に導入し効果を上げた手法です。本手法はQCをルーツにもつため類似点が多くありますが、決定的違いはボトムアップ型活動でなく専任メンバーによるトップダウン型の改革に特徴を持っています。米国の製造企業が、IT技術の進化や経営環境変化に素早く追随し復権したのは、経営視点の真のTQM実践にあるといえます。

(表1)製造業の労働生産性水準 日本・米国の変遷

(表1)製造業の労働生産性水準 日本・米国の変遷
出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」

モジュール化やグローバル拡大は、企業外部とのアライアンスや企業内部の組織間関係や業務フロー等に様々な影響を与えています。ISO取得から20年以上経過した現在、認証により定着させたルールやプロセスにメスを入れる時期と考えるならば、部分最適な改善でなく、上からプロセスを見下ろす全体最適(営業・企画・設計・調達・製造・サービス)のプロセス再設計をトップダウンで実施すべきです。

6. QMSを骨格とした経営管理の実現

紙媒体が引き起こす情報の埋没

ISO認証取得により、インプット・アウトプットは書類でおこなわれ、書類が規定プロセス上を流れるルールが定着しました。口頭指示の文書化により、業務正確性とトレサビリティを高め、業務進捗の把握も容易になりました。結果、紙資料が職場に溢れましたが、2005年頃には個人PCが普及し、ExcelやPDF等の電子ファイルとe-mailの組み合わせで、見かけ上の書類の山は減少し現在に至っています。

ISOで整備された業務管理ですが、経営管理上の負の遺産を残しました。それは、情報が書類に埋め込まれ埋没することです。書類に書かれた情報は、それを開いて見ない限り認識できません。大型ファイルに閉じられた書類の情報は、管理台帳を頼りに人間の手を頼りに発掘が必要、電子ファイルであってもそれは同じです。業務書類の中には、仕事の着手を促す作業指示、業務遂行で必要な図面・仕様・日程といった業務情報(インプット)、指示に従って実行した結果情報(アウトプット)、情報受け渡し先という仕事の流れ、などが埋め込まれて埋没を引き起こしています。

私たちは、これらの情報の埋没を補助するため、週次月次の受給調整会議・商品開発会議・品質管理会議といった会議を、定期的に実施していないでしょうか。会議では、書類に埋没した情報を抜き出し、一覧表等で再表示して会議資料として配布し情報共有を補助します。会議資料は仕事準備を促すフォーキャスト情報となって、業務書類がやってくる前にリソース調整等の事前準備を進めるスタイルが、日本企業の日常ではないでしょうか。日本企業の会議が意思決定の場面でなく、情報共有や擦り合わせの場といわれる理由が、このような背景にあるといえます。

(図1)書類リレーと埋め込まれた情報

(図1)書類リレーと埋め込まれた情報

情報の解放による新しい仕事のスタイル

実は情報の埋没が最も影響を与えているのは、経営戦略や販売・商品戦略といったトップマネジメントです。近年、ERP・PLMといった基幹系業務システムの導入が進み、経営情報の統合と見える化が進んだといわれますが、これらシステムが扱う情報は一部の結果情報にすぎません。いま経営幹部が欲しいリアルな情報は、このシステムだけでは不十分と感じる方が多いとおもいます。新技術・商品開発状況、場内・市場品質、顧客の声、原価改善、調達開発、といった今すぐに欲しい情報は、書類に埋没して発掘困難な状況で存在します。生産性及び品質改善の経営課題には、埋没した情報を引き出し意思決定で使える環境が必要です。しかし、多種情報を統合的に収集し判断するニーズは現場部門に少なく、QCサークル的改善に頼る問題解決は困難です。ここはトップダウンによるクロスファンクショナルチームを編成し、経営幹部の指示による情報管理の改善を直ぐに始めるべきです。

埋め込まれた四つの情報(作業指示・業務情報・結果情報・仕事の流れ)をコンピュータ上に開放することで、指示と情報を分離することが可能になり、仕事の流れや情報共有を自由に設計することができます。コンピュータによる情報共有が向上して、新しい仕事スタイルが自然に生まれ、これらは経営管理に役立つダッシュボードに成長します。

(図2)情報の開放とコンピュータによる共有

(図2)情報の開放とコンピュータによる共有

7. 品質保証における組織間連携とマネジメント強化のポイント

QMSの改革に特効薬はなく一足飛びにはいきませんが、改革の一歩を踏み出すためのポイントを業務・情報・組織の視点から解説します。

01. 品質問題の処理をバケツリレー型からラグビー型へ転換

品質保証領域では、不具合の発生、応急処置、原因分析、恒久処置、水平展開といった業務に対して多種の専用書類が存在し、組織間をバケツリレーで書類が回り業務が進みます。このような従来のバケツリレー型を排除し、関係部門がコンカレントに業務を進めるラグビー型への転換が重要です。品質問題の発生から対策完了までのプロセスを見える化し、関係者全員が同じ情報・進捗を把握しながら進めるやり方です。その実現には、紙やExcelのままでは困難なので、それに代わるITツールの活用が必要になります。

02. 紙やExcel作業を排除し、あらゆる品質情報をデータベースに蓄積

過去の品質情報は更なる品質向上に不可欠な貴重な資産です。しかし、先に触れたように紙やExcelでは情報が埋没し、経営判断に必要な情報の集約は困難です。クレーム管理、変更管理、検査データ管理、サプライヤー管理など多岐にわたる品質保証業務をデジタル化し、品質情報をデータベースに蓄積、必要なときにすぐ取り出せる環境を築くことが重要です。

03. 改革は小さくはじめて大きく拡げる

日本の組織文化を考慮すると、いきなり組織横断の大きな改革は進みにくい現状があります。解決すべきテーマの焦点を絞り、賛同者・協力者を巻き込みながら短期間で実績を出し段階的に拡大させることが重要です。目的と戦略は組織全体で設計して、各業務や組織単位で細部を作り統合するイメージです。

8. 品質保証改革の成功事例

自社でQMSの改革に向けた取り組みを検討にするあたり、真っ先に参考にしたいのが他社の事例とおもいます。ここではITツールを活用してQMSの改革を推進した成功事例を3つご紹介します。

株式会社島津製作所
品質マネジメントを変革し、リードタイム短縮と業務効率化を実現
日立建機株式会社
ITフル活用で品証プロセスを変革する品質デジタライゼーション
東芝テリー株式会社
品質問題の未然防止に向けた、プロセス上流の品質改善

この記事のまとめ

  • 品質保証とは、品質を確約する活動を包含した、商品企画・設計・製造・サービスといった様々な組織機能を挙げた品質マネジメント活動です。
  • ISO認証取得によるQMSの構築は、1990年代から主にQCサークルに代表される現場主導のボトムアップ型活動で推進されてきましたが、ビジネス環境が大きく変化した現在、品質マネジメント活動は従来の部分最適な改善活動ではなく、経営視点を取り入れたトップダウンによる全体最適の活動が強く求められています。
  • 真のTQM実践には、IT技術の進化や経営環境変化に素早く追随し、多種の情報をリアルタイムで集約し、統合的思考に基づいた意思決定を行うための情報基盤を築くことが重要です。

【参考文献】
飯塚悦功(2009)『シリーズ<現代の品質管理>現代品質管理総論』朝倉書店。
飯塚悦功(2005)『超ISO企業実践シリーズ1,ISOを超える』日本規格協会。
鈴木良始・那須野公人 編著(2009)『日本のものづくりと経営学 現場からの考察』ミネルヴァ書房。

岡山商科大学経営学部教授 國學院大學経済学部兼任講師 門脇一彦 氏

門脇一彦 氏
岡山商科大学経営学部教授
國學院大學経済学部兼任講師

1959年大阪市生まれ。神戸大学経営学研究科博士後期課程、博士(経営学)。ダイキン工業株式会社で空調機開発及び業務改革を実践後、2015年より電子システム事業部でITコンサルタントを担い現在に至る。2021年より現職。経営戦略、技術管理、IT活用、医療サービスマネジメントなどを研究。

 

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